社長のぼやきです

　 私、初めてよ、あなたのように悪い男。ここ、ご存知。あなたと始めてあった場所。 摩周湖の展望台。あなた風に任せてチラチラ私を見つめて、何となく感じの悪い男って思った。遠くの山にはまだところどころ白い雪が残って、雲間に太陽が隠れると寒かった。 青いカーディガンを貸してくれたあなたは無言だった。私ね、無言に弱いのよ。綺麗な雪肌に日差しが光を反射し、青い湖を余計淡い色に写した。 そうよ、あなたに会いたくなったら、私はいつもこうしてここに来るの。 春の終わりの、夏の始まりのまだ肌寒かったあのとき、風が吹くたびにあなたの男の匂いがした。私は、いくらあなたを思い出しても、想い出は遠くに去ろうと必死にもがくのよ。 君を愛していると何度も言ったくせに、なんなのよ。今日の摩周湖はご機嫌斜め。このまま、ずっとここにいて私はきっと寒さでカチカチにかたまるでしょうね。あなた、いい加減私を自由にしてよね。 どこで、どこに、私は何も考えられない。誰か、私の男を知らないかしら。 夜空の星を数えながら、女は新千歳空港、最終便で飛び立った。短い出会いだったが、心預けた男を忘れることが出来なかった。又、来年、あの季節が来たら、霧の摩周湖に来ようと思った。もしかして会えるかもと思ったのだ。 男は北の遠くの星になっているにもかかわらず。女の心にいつも浮かんでいる。こんな女がいてもいいじゃあないか。


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